〜科学にロマンを、ロマンに科学を SFと科学の接点を探求する〜

2003/12/26

世界初の走る人型ロボットが誕生 

<ロボット> ソニーの二足歩行式人型ロボット「キュリオ」(QRIO)が、このタイプのロボットとしては世界で初めて「走る」ことに成功しました。ソニーのロボットといえば、ロボット犬「アイボ」(AIBO)が有名ですが、このキュリオは次世代のエンターテイメント・ロボットを目指して開発が進められているものです。
 走行と歩行の違いは、両足が同時に地面から離れるかどうかという点にあります。ソニーによると、キュリオの場合、両足が浮いている時間は最大100分の4秒で、その高さは5ミリほどだそうです。
 これまでの人型ロボットは、どちらかの足が地面についていないと安定した移動ができませんでした。走るためには、ほんの一瞬とはいえロボットの両足が地面から離れなくてはならないため、開発者たちは今回、地面と接触していることを前提としたこれまでの制御理論とは異なる、独創的な技術を用いたと述べています。
 キュリオは身長58センチ、重さ約7キロです。同じく人型ロボットであるホンダの「アシモ」(ASIMO)と比較すると小柄ですが、そのおかげでアシモよりも柔軟な運動ができます。たとえば、踊りを踊ったり、シーソーの上でバランスを取ったりすることができますし、今回のデモンストレーションでは、走るほかに野球の投球フォームを実現して見せました。
 ソニーの土井上席常務によると、次の課題は、キュリオの走り方を週末のジョギング愛好家からスポーツ選手にできるだけ近づけることだそうです。アイボはすでにサッカー大会で活躍していますが、近々人型ロボットによるオリンピックが開催されることになるかもしれません。

(2003/12/31 追記)
 NHKの紅白歌合戦をご覧になった方はお気づきになられたと思いますが、番組中でさりげなくキュリオの応援団がダンスを踊っていましたね。あくまで「ロボット」とだけ呼んで、決してキュリオとは呼ばず、ソニーの名前も出さないところが、いかにもNHKらしかったです。

2003/12/22

学研「大人の科学」を続々と刊行 

<科学教育> 学習研究社(学研)は、大人向けの付録つき科学雑誌「大人の科学マガジン」の第3号を刊行しました。この雑誌は今年5月に創刊され、全国の書店で販売されているほか、学研のオンラインショップで購入することも可能になっています。
 子供の頃に、「学研のおばさん」が届けてくれる「○年の科学」や「○年の学習」を楽しみに待っていた方も多いのではないでしょうか。かく言うわたしもその一人です。この雑誌は、そうした層を狙った商品として企画されたようです。
 第1号の付録は、1967年「4年の科学」9号の付録教材の復刻版で、ロウソク1本でたらいの中をクルクル回る「ポンポン船」(動画)。第2号の付録は、指紋検出薬、血液判定薬、繊維判定薬、水に入れると溶ける紙、紫外線を当てると文字が浮き出るペンの5種類の秘密道具が一緒になった「探偵スパイセット」。そして、第3号の付録は、子供向け雑誌の付録の王道「ピンホールカメラ現像セット」です。
 子供の頃は動作原理がよく分からないまま遊んでいた付録教材も、改めて大人になった目で見直すと、新しい発見があるのではないでしょうか。同じような例として、NHK教育テレビの小学生向け科学番組を何気なく観ていると、思わぬ発見をして驚くことがあります。わたしたちの身の回りには、普段は見落としている「発見」がたくさんあるのかもしれませんね。

(2003/01/09 追記)
 本文中の「ピンホールカメラ現像セット」を入手された方のウェブログ(写真つき)を発見しましたのでご紹介します。購入を検討されている方は、使い心地などをお尋ねになってみてはいかがでしょうか。

2003/12/19

人類初の動力飛行から100年 人類はどこまで行けるか 

<科学技術史・宇宙開発> 少々時期を逸してしまいましたが、今年12月17日はライト兄弟が人類初の動力飛行を成し遂げてから、ちょうど100年目にあたります。この間、人類はその活動領域を宇宙にまで広げました。これから100年後、2103年に、人類はどこまで到達しているのでしょうか。
 ライト兄弟の動力飛行100周年を記念して、この100年間の航空宇宙史を振り返ってみましょう。1914年に始まった第一次世界大戦を通じて飛行機は急激な進歩を遂げました。ライト兄弟からわずか24年後の1927年には、リンドバーグが初の無着陸大西洋横断飛行に成功します。
 不幸にして、第二次世界大戦はさらなる飛行機の飛躍の時期でした。1944年には初の実用的なジェット戦闘機が登場し、同年、初の本格的な弾道ロケットが実用化されて、その後の宇宙ロケット開発に大きな影響を与えることになります。
 冷戦期に入ると、アメリカとソ連が宇宙開発競争にしのぎを削りました。当初はソ連がアメリカをリードし、1957年に人類初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げ、さらに翌月にはライカ犬を乗せた「スプートニク2号」を打ち上げて世界を驚かしました。さらに、1961年には人類初の宇宙飛行士ガガーリンが宇宙から青い地球を見下ろすことに成功します。
 危機感を抱いたアメリカは、同年「アポロ計画」を発動しました。人類を月に到達させるという野心的な計画は成功をもって報われ、1969年、「アポロ11号」から月面に降り立ったアームストロング船長は「人類にとって偉大な一歩」を記すことになります。その後も計画は続けられ、合計6回、12人の宇宙飛行士が月面に足跡を残しました。
 その後、宇宙開発はより実用的な方向に進んでいきます。無数の人工衛星が打ち上げられ、宇宙から地球を観測することはもはや当たり前になりました。1981年、地上と軌道上をなんども往復できる宇宙往還機「スペースシャトル」が登場し、人類にとって宇宙はよりいっそう身近な場所になりました。
 一方で、人類を長期間にわたって宇宙に滞在させる試みも進められてきました。1986年にソ連が打ち上げた宇宙ステーション「ミール」は、宇宙飛行士の宇宙における最長滞在記録を残しました。現在建設が進められている国際宇宙ステーションには、日本、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ各国、およびロシアが参加しています。
 さて、ここまで100年間の航空宇宙技術の歴史を駆け足で振り返って来ましたが、どんな感想をお持ちになったでしょうか。航空宇宙技術の歴史は、冷戦も含めて戦争と切っても切れない関係にあります。この事情は、2003/12/06の記事「米国が有人月面探査を再開? 科学と政治の微妙な関係」でも取り上げましたが、不幸にして紛れもない事実なのです。
 ところで、人類はこの先100年間でどこまで到達できるのでしょうか。ちょっと想像してみてください。ライト兄弟が人類初の動力飛行に成功したとき、はたして現在の宇宙開発の状況を想像できたでしょうか。恐らくジュール・ヴェルヌのSF小説の世界くらいにしか考えていなかったのではないでしょうか。
 現在の我々も同じです。100年後、我々が到達している場所は、火星か、木星か、はたまた別の恒星系か、正確に想像することは困難です。もしかすると、まだ誰も観測したことのない別の宇宙に行けるようになっているかもしれません。

(2004/01/05 追記)
 日経サイエンス1月号に、ライト兄弟の栄光と悲劇に関する伝記が掲載されています。興味のある方はご覧ください。

2003/12/15

あごの骨から歯を再生 進歩著しい再生医療 

<生物工学・医学> 東京大学の研究者たちが、犬を使った実験で、あごの骨の細胞から完全な歯を再生することに初めて成功しました。歯の再生医療が実現すれば、高齢者の生活の質向上などにつながると期待されています。
 研究者たちは、犬のあごの骨から歯の元となる「歯胚(しはい)」という細胞群を採取し、その中から、様々な器官に成長する能力を持つ「幹細胞」を取り出しました。それを培養した上で、あごの骨に戻したところ、20週間後にはエナメル質など一そろいの組織がそろった歯に成長したとのことです。内部には血管や神経も確認できました。
 これは近年進歩が著しい再生医療の一例にすぎません。再生医療では、現在、ほぼすべての組織・臓器の再生が、臨床応用を目指して研究されています。その中でも、実際にわれわれの目に見えるものとしては、皮膚、軟骨、血管などの再生が有名です。
 それでは、再生医療とは、そもそもなんでしょうか。再生医療とは、体の一部が死んでしまったり、外傷で失われたり、ガンで正常な働きが損なわれたりした際に、細胞を利用してその失われた機能を取り戻す医療のことです。より詳しく言えば、再生医療とは、自分自身の細胞や他人の細胞、あるいは他の動物の細胞に対して、細胞の外からなんらかの工夫を加えて、その細胞の持っている能力を身体の中で発揮させ、機能を回復させる治療法です。
 これまでは、身体の一部、あるいはその機能が失われた場合、臓器移植人工臓器が主な治療法でした。しかし、臓器移植ではドナー(臓器提供者)の数が決定的に不足しているため、必要としているすべての患者に臓器移植を行えません。また、人工臓器も完全に元の体の機能を発揮できるものは、残念ながらまだ開発されていません。
 そこで再生医療の出番です。再生医療の手法としては、1、様々な細胞の元になる細胞(幹細胞)を体の外に取り出して、必要としている機能を持つ細胞に選りすぐって生育・変化させ(これを「分化誘導」と呼びます)、体の中に埋め込む手法や、2、元からある体の中の細胞に対して、体の外から分化誘導因子(分化誘導を進める物質)や、細胞増殖因子(細胞を増やす物質)を注入して、体の中で必要としている細胞を増やす手法があります。最初に取り上げた歯の例は、前者の場合に該当します。
 再生医療で面白いのは、必ずしも欲しい組織の幹細胞を使わなくとも構わないことです。最初の例で、あごの骨から歯を作り出したように、骨から血液を作り出したり、神経を作り出したりすることも可能なのです。これは、幹細胞が非常に多くの種類の細胞の元になる能力を持っているためだと考えられています。そして、現在の研究は、その能力をいかにして引き出すかに焦点が当てられているのです。
 特に多くの種類の細胞に変化できる幹細胞は、受精卵がわずかに成長した段階(胚)の細胞から採取されるもので、胚性幹細胞(ES細胞)と呼ばれます。研究を行う上で、非常に重要な細胞なのですが、動物の場合はともかく、人間の場合は取り扱いが難しくなってきます。なぜなら、胚性幹細胞を手に入れるためには、死んだ胎児から取り出すか、生きている人間の細胞をクローン技術で複製するのが主な方法だからです。この辺の倫理的な問題については、2003/11/09の記事「クローン人間禁止条約が採決先送りに」をご覧ください。
 いずれにせよ、再生医療が次世代の画期的な医療として、注目を浴びている事実は変わりません。研究も急ピッチで進んでおり、おそらくこの記事の下には多くの追記が加わるでしょう。わたしたちがこの治療法のお世話になるのも、そう遠い将来のことではありません。

(2004/01/07 追記)
 東海大学医学部の研究グループが、筋肉の隙間にある細胞(MP細胞)は、筋肉や血管など様々な組織に成長する能力を持っている可能性が高いことを突き止めたそうです。この細胞は胚性幹細胞(ES細胞)などと異なり、体に豊富に存在していて手軽に取り出せる上、利用に際して倫理的な問題が生じないため、再生医療への応用が期待されます。

(2004/01/22 追記)
 東京大学病院のチームは、様々な組織や細胞に分化する能力がある体性幹細胞を、脂肪とともに注入し、乳房を大きくする手術を実施しました。従来の豊胸手術よりも生着率がよく、安全性も高いといい、先天疾患や事故、乳ガン手術などで乳房整形が必要な人への治療に効果が期待されています。

(2004/02/15 追記)
 京都府立医科大学は、急性心筋梗塞の男性患者に、血管に育つ幹細胞を本人の血液から取り出し、そのまま患部に注入して血管を再生させる治療を行いました。
 血管再生では、骨髄から採取した幹細胞を注入する治療が、日本で170例以上実施されています。また、血液から取り出した幹細胞をいったん培養して注入する治療がドイツで約20例あります。しかし、血液から採取した幹細胞をそのまま直接注入した例は世界初でした。

(2004/03/21 追記)
 HOTWIRED JAPANの記事で、体細胞を若返らせて幹細胞を作り出そうとする試みが紹介されています。興味のある方はご覧ください。

2003/12/13

携帯電話の飛躍 非接触ICチップ搭載が主流に 

<情報通信> 10月にソニーとNTTドコモが合弁会社を設立したのに引き続き、KDDIと日立製作所が非接触ICチップを搭載できる携帯電話を開発したと発表しました。これで、非接触ICチップを搭載した携帯電話が主流となることが、ほぼ確実になりました。
 いずれも技術の基本となっているのは、ソニーが開発した非接触ICチップ「FeliCa」であると見られています。このFeliCaは、JR東日本の電子乗車券「Suica」などに採用され、東南アジアなど世界で3800万枚を発行した実績があります。
 さて、携帯電話に非接触ICチップが搭載されると、どうなるのでしょうか? 現在考えられているのは、携帯電話を装置にかざすだけで、現金や乗車券、会員証、映画のチケットなどの代わりとして使えるサービスです。
 いまや、時計代わりとして携帯電話を肌身離さず持っている方も多いでしょう。この携帯電話が、普段持ち歩くものすべての代わりになるとしたら、便利なことこの上ないはずです。さらに、将来的には個人認証機能を加えて、携帯電話を身分証明や印鑑代わりにするというアイデアも検討されています。ここまでくると、もう電話とは呼べないですね。
 それもそう遠い未来の話ではありません。NTTドコモは、今月にもICチップ搭載端末を使った試験サービスを6000台規模で開始し、来年度の中頃には同機能を搭載した携帯電話を発売することを予定しています。一方、KDDIは来年の早い時期に試験サービスを開始し、その結果を踏まえて商用化を検討するとしていますが、既にJR東日本との協力は進めているとのことです。
 今でこそ、携帯電話で写真が撮れるのが当たり前の世の中になりましたが、10年前にそんなことを想像していた人はどれくらいいたでしょうか。高機能化を続ける携帯電話の進歩は、当分止まることがないようです。

(2003/12/15 追記)
 NTTドコモは、12月17日から非接触ICチップを搭載した携帯電話の実証実験を開始すると発表しました。参加企業には、JR東日本や、電子マネーのEdyを提供しているビットワレットのほか、クレジット会社のJCBやソニーファイナンス・インターナショナル、コンビニエンスストアのam・pmやローソン、Eチケットを扱うイープラスやぴあ、航空会社のANAなどの名前が並んでいます。

(2003/12/19 追記)
 JR東日本が携帯電話を定期券代わりに使うデモを公開しました。ちなみに、実証実験で使われる携帯電話の機種名は、N504iCとSO504iCだそうです。洒落てますね。

2003/12/12

光を完全に停止させることに成功 

<物理学・コンピュータ・情報通信> ハーバード大学の物理学者チームが、数十万分の一秒というごくごく短い時間ながら、光を完全に停止させ、次にそのまま進路に沿って前進させることに成功しました。今回の成果は、光によって動作する超高速コンピュータの開発などの多くの分野で役立つ可能性があります。
 光といえば、アインシュタインの相対性理論によって、宇宙でもっとも高速なものとされ、その進行を途中で止めるなどということは想像もつかないところですが、今回の研究によって、それが実現してしまったのです。凡人のわたしには理解できない世界ですね。
 光の停止に成功したとして発表された研究成果は2001年にもありましたが、今回の成果とは性質が異なります。2001年の研究は、個々の光の粒子(光子、フォトン)がガス中の原子にとらえられている間、光を技術的に短期間「貯めておく」ことを可能にしたというものでした。しかし、今回の研究は、光とそのエネルギーを進路上で、非常に短い時間とはいえ、実際に停止させるというもので、先行する研究をさらに上回るものと言えます。
 光子を制御してデータの保存と処理に使えるようになれば、現在のコンピュータの限界を打ち破る画期的なコンピュータとして期待されている、量子コンピュータの開発という目標の達成に役立つかもしれません。また、盗聴の心配なしに、長距離間の情報通信を行なう量子暗号としても使える可能性があります。さらに、今回の研究は、光を情報の伝達媒体に使う、従来型の光ファイバー通信とデータ処理技術の向上にも応用できるでしょう。
 ただし、研究チームの一人であるルーキン博士によると、現在の研究は光の制御という目標に向けて一歩前進したにすぎないとのことで、上記のような応用分野に役立つかどうかを見定めるには、さらに研究が必要だとのことです。

(2004/01/07 追記)
 信州大学などのグループは、絶縁体で作ったフラクタル構造の空洞のある立方体(フォトニック・フラクタル)の中に、電磁波を1000万分の1秒程度という短時間の間、完全に閉じ込めることに成功しました。原理は不明ながら、立方体の大きさや材質によって、蓄積される電磁波の周波数を変えることができることもわかっており、理論上は光にも応用可能(光は電磁波の一種)とのことです。

2003/12/11

マウスの精子の培養に成功 授精能力も確認 

<生物工学・医学> ボストン小児病院をはじめとする複数の研究者たちが、マウスの胚性幹細胞(ES細胞)から精子を分化させて培養し、卵子を受精させることに成功しました。この成果は、男性不妊などの病気の研究に貢献するだけでなく、生物学・医学の分野で極めて重要な意味を持っています。正常な能力がある精子を試験管内で作ることによって、治療目的のクローニングや、ES細胞の育成の基礎的プロセスについての理解が進むことになりますし、精子に遺伝子操作を加えることが容易になることで、新たな遺伝子治療の開発にもつながると期待されています。
 研究者たちは、マウスの胚(受精後間もない初期の細胞群)の中にごく少数含まれ、卵子にも精子にもなりうる胚性生殖細胞という特殊な細胞を集めて培養し、精子に似た細胞(普通の精子と異なり尾がない)に育てました。この細胞を成熟した卵細胞に注入したところ、ほぼ半数が通常の受精卵のように細胞分裂を始め、授精能力があることが確かめられたとのことです。
 また、このことによって、クローン胚から採取したES細胞が正常で、治療に利用できる可能性が高いことが明らかになりました。この胚から健康なマウスが誕生すれば、さらに望ましい結果だと言えます。そのことを確かめるべく、現在研究者たちは、この受精卵のような細胞をマウスの子宮内に移植し、妊娠や出産につなげる実験を進めています。
 しかし、この研究は一方で、さまざまな倫理的な問題を引き起こすことが容易に予想されます。今回はマウスでしたが、これが人間だったらどうでしょうか。2003/11/09の記事「クローン人間禁止条約が採決先送りに」で取り上げたドタバタが繰り返されるのが目に浮かぶようです。

世界の人口爆発は止まらず 宇宙移民の可能性は? 

<社会問題・宇宙開発>  国連の人口部門は、2300年までに世界の人口が現在の63億人から約90億人に増加するとの予想を発表しました。今後300年の人口推移を予想したリポートは、これが初めてです。「2300年の世界人口」と題されたリポートによれば、この頃には日本人の平均寿命は108歳。アフリカの人口が爆発する一方、欧州の人口は減少傾向と推定されています。
 さらに恐るべき予測も示されています。今後も家族の小規模化傾向は続くとみられるものの、発展途上国の出生率が現状のままなら、2150年時点の世界人口は2440億人、2300年時点では134兆人(!)になっている見通しとのことです。
 また、国連の人口問題担当者は、仮定の小さな違いが結果の大きな相違につながる可能性もある、と指摘しています。たとえば、2300年の人口が90億人との予想は、1家族当たりの子供を2人とする前提による算出ですが、これがわずか0.25人増えただけで、2300年の人口は約4倍の364億人になってしまいます。
 このいわゆる人口危機は、何十年も前から指摘され、数々の対策が考えられてきたにも関わらず、いまだに根本的な解決策が見つかっていない問題です。果たして、地球上で100億人近い人間が生活することができるのでしょうか? 食料は? 住居は? 資源は? そこで、今回は視点を変えて、余剰人口を宇宙に移民させる可能性について考察してみたいと思います。
 宇宙移民と言って、多くの人がまず思い浮かべるのは「機動戦士ガンダム」でしょう。このアニメの世界では、地球に住みきれなくなった人間を、地球・月周辺の宇宙に浮かぶ「スペース・コロニー」(宇宙植民地)に移住させたという設定になっています。スペース・コロニーとは、簡単に言えば自己完結した宇宙都市のことです。宇宙ステーションや月面基地の巨大版だと思ってください。そこでは、巨大な建造物の中に空気が満たされており、多くの場合は建造物全体を回転させることによって、遠心力による擬似重力を発生させています。
 スペース・コロニーを実際に建造するためには、高度な宇宙建築技術と材料となる資源が必要ですが、これはなんとかなるとしましょう。その上で、スペース・コロニーを運営していくために必要不可欠な要素として、閉鎖生態系の確立という問題があります。難しそうな言葉ですが、要するに外部からなんの資源も供給されなくても、コロニーの内部だけで継続的に自足自給ができる状態にするということです。これは簡単そうに見えて、かなりの難問です。なんといっても、もうひとつの地球環境を作ろうというのですから。
 一方、別の可能性として、太陽系の他の惑星や衛星(月)に移住することも考えられます。この場合、移住先としてもっとも有望なのは火星です。現在の火星は、人間の呼吸に適した大気もなく、完全に冷え切った寒い星ですが、これを、大改造して人間が住める惑星にしようというのです。このような惑星地球化を「テラ・フォーミング」と呼びます。
 火星を地球化するためには、気温と大気の問題を解決しなければなりません。しかし、火星には地球化に適した材料がそろっているのです。すなわち、極地に存在する大量のドライアイス(二酸化炭素が凍ったもの)と、かつて火星に豊富に存在し、現在は氷の形で地中に眠っていると考えられている水です。詳しくは、2003/11/14の記事「火星に川が存在した決定的な証拠を発見」をご覧ください。
 2003/12/10の記事「地球と火星の温暖化 予測困難な未来像」で取り上げたように、二酸化炭素は温室効果を引き起こして気温の上昇をもたらします。火星にはドライアイスがあるのですから、なんらかの手段でこれを融かせば、生物が住むのに適した温度まで気温を上げることができます。さらに、気温が上がれば、現在は地中で凍っている水が、液体になって地上に現れると予想されています。
 ここまで来れば、人間は無理でも微生物や植物ならば生きていくことができます。そして、植物が二酸化炭素を吸って酸素に変換することで、今度は動物が生きていくために必要な酸素が蓄積されていきます(かつて、地球も同じ過程をたどって酸素を獲得しました)。こうして気温と大気の環境が整ったところで、いよいよ人間が移住するわけです。ちなみに、ここまで来るのに、およそ1000年はかかるだろうと考えられています。
 ここまで読んできておわかりのように、人類が地球の外に移住するのは簡単なことではありません。いずれは地球という揺りかごの外に出て宇宙に羽ばたくにせよ、それまではこの地球という限られた環境で生き延びていかなければならないのです。人口危機の問題を解決できるかどうかは、人類の命運そのものを左右すると言えるでしょう。

(2003/12/11 追記)
 長くなるので本文ではあえて触れませんでしたが、第三の道として、太陽系外の地球に似た環境の惑星に移住するということも考えられます。この場合、問題になるのは、いかにして地球に似た惑星を見つけるかと、どうやって光年単位の距離を移動するかです。前者は、2003/10/10の記事「見えない惑星を探せ! 地球外生命探査の今」で取り上げた内容が参考になるでしょう。後者は、いわゆるワープ技術冷凍睡眠技術でも見つからない限りは、世代宇宙船を使って地道に行くしかないのではないでしょうか。

2003/12/10

地球と火星の温暖化 予測困難な未来像 

<社会問題・惑星科学> いまや環境問題の代表格となった感のある地球温暖化。一般には、二酸化炭素などの温室効果ガスが増加すると、地球全体の気温が上昇し、南極などの氷が溶けて海面が上昇すると考えられています。しかし、実は地球温暖化の影響は、そんなに単純なものではありません。専門家の間でも、その影響の内容を巡っていまだに意見が対立しているのが現状なのです。
 なぜでしょうか。実は地球の気候は、ある地域の気候が他の地域に影響を与えるといったように互いに関連しあっていて、簡単には全体の予測がつかないからです。南米沖の海面温度の上昇が日本の気候に影響を与える「エルニーニョ現象」を考えていただければ、おわかりいただけるかと思います。
 現在のところ、地球温暖化によってもたらされると考えられている影響には、海面の上昇の他に次のようなものがあります。台風・洪水などの異常気象の増加、現在絶滅の危機にさらされている動植物の死滅、マラリアなど熱帯性の伝染病の流行、穀物生産の減少に伴う世界的な食糧不足、等々。
 ここでひとつ、地球温暖化の複雑な影響を示す例をあげましょう。国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)に集まった科学者や環境保護論者たちは、地球温暖化の影響で西ヨーロッパ地域がむしろ寒くなるかもしれないと懸念しているそうです。その理由は、融けた北極の氷が、ヨーロッパの温暖な気候を作り出す主な原因となっている暖流の水温を下げるためです。グリーランドや北極の氷が現在のペースで融けつづけた場合、ヨーロッパの気温は今後50年以上徐々に上がった後、急激に下がる見込みだといいます。
 一方、火星でも温暖化のような気候変動が起きている可能性があるとの分析結果を、NASAの研究グループがまとめ、全米地球物理学会で発表しました。2001年に打ち上げられ、火星を周回している無人探査機「マーズ・オデッセイ」の観測装置で得られたデータから水分量を分析した結果、氷が溶解し始めていることを示す結果が出たそうです。
 発表によると、火星の両極周辺の深さ約50センチまでの土壌を分析したところ、深い部分には氷の比率が60〜100%と非常に多い層があり、その上には土壌粒子の間にだけ氷が存在する氷の少ない層があることが分かりました。さらに、それより上の表面近くにはほとんど水分はなく、乾燥して砂ぼこりに覆われる層となっており、このことから表面に近いほど氷の溶解が進んだとみられるそうです。この結果から、研究グループは「火星は氷河期の終わりのような、気温上昇過程にあるのではないか」と推測しています。
 ちなみに、地球から見て火星と反対側にある惑星、金星は環境汚染が行き着くところまで行った地球に例えられます。その地表は分厚い二酸化炭素の層に覆われ、温室効果によって450度以上の高温になっており、大気中には酸性雨を降らす硫酸の雲が浮かんでいます。美の女神ヴィーナスの名を持つ惑星は、環境のバランスが崩れた地球の未来像なのかもしれません。

(2003/12/12 追記)
 地球温暖化によって2000年だけで推定15万人が死亡し、このまま放置すれば30年後には死者が倍増する恐れがあると指摘した報告書を、世界保健機関(WHO)がまとめ、気候変動枠組条約締約国会議で発表したそうです。
 報告書は、温暖化やオゾン層の破壊などによる健康への悪影響を、最新のデータを基に推定したもので、一度に多数の死者が出るような異常気象の増加のほか、感染症や食中毒、栄養不良などさまざまな影響が出るとしています。

(2003/12/13 追記)
 環境保護団体の日本生態系協会が発表した、「今年最も関心のあった環境をテーマにしたニュース」の第1位は、日本で冷夏、欧州では熱波による猛暑となった「世界レベルの異常気象」が受賞しました。熱中症による死者や農作物、産業への打撃もあり、地球温暖化の影響に関心が強かったようです。

(2003/12/17 追記)
 世界気象機関(WMO)は、今年の世界の年間平均気温が1961年から1990年までの平均と比べて0.45度高く、過去1000年間で3番目に暖かい年になりそうだとの調査結果を発表しました。
 また、AstroArtsに、火星の温暖化についての詳しい記事が掲載されています。興味のある方はご覧ください。

(2004/01/05 追記)
 日経サイエンス2月号に、温暖化に伴って北極の氷が融けることによる影響に関する記事が掲載されています。興味のある方はご覧ください。

(2004/01/08 追記)
 米国や英国などの国際研究チームが、地球温暖化の影響で2050年までに、地球上の植物と陸上動物の4分の1にあたる、100万種以上の生物が絶滅する恐れがあるとの予測結果をまとめました。
 研究は、気温上昇予測をもとに、植物、哺乳類、爬虫類、鳥類、昆虫など約1100種の生息可能範囲の変化をコンピューターで予測したもので、気温の上昇が最も激しい場合は37%、少なくとも15%が、絶滅の危機に追い込まれるとの結論に到達しました。なお、これは恐竜絶滅以来最大の規模にあたります。

(2004/02/18 追記)
 米航空宇宙局(NASA)と、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で運用する熱帯降雨観測衛星(TRMM)の観測から、地球温暖化によって熱帯域の海面温度が高くなると、この地域の降雨量が多くなることが判明しました。
 温暖化で豪雨が増加する可能性はコンピュータ・シミュレーションで予測されていましたが、実際の観測データはほとんどありませんでした。温暖化が雨を激しくする程度は、コンピュータの予測より大きいことも分かりました。

2003/12/09

南極で観測隊員が遭難 白い悪魔の恐怖 

<極地観測> 韓国政府は、同国の南極観測基地「世宗基地」所属の観測隊員8人が、相次いで遭難したと発表しました。うち4人の生存を確認したものの、1人が死亡し、3人が現在も行方不明となり、現地で捜索が続けられています。
 韓国海洋研究院などによると、遭難した8人は先月末に世宗基地に入り、これから観測業務を始める隊員たちでした。彼らは、越冬任務を終えて帰国する前任者をゴムボートに乗せ、世宗基地から西15キロに位置していて、飛行機の発着が可能なチリの基地に送り届けました。その後、世宗基地へ戻る際に、隊員3人の乗ったボートが悪天候のため、基地に帰着できなくなったのです。
 3人は同日夕、「近くの中国基地に向かう」という連絡を入れ、翌朝にも断続的な無線交信を行いましたが、その後、連絡が完全に途絶えました。このため、世宗基地から、救助隊5人が現場海域へと向かいましたが、あろうことか出発から1時間半後、「ボートに異常が発生し、操縦していた隊員が水に落ちた」という連絡を最後に、消息が分からなくなったのです。さらに翌日になって、ロシアの捜索隊が救助隊5人を発見し、4人生存、1人死亡と世宗基地に通報してきました。結局、最初に遭難した3人は未だに行方不明のままです。
 日本の南極観測基地といえば昭和基地がお馴染みですが、今年NHKがこの昭和基地に放送センターを設立して、すっかり極地とお茶の間の距離が縮まった感があります。先日の皆既日食の際にも、南極からの素晴らしい映像が生中継されました。しかし、やはり極地は極地、そこで働く隊員たちは命がけなのです。アムンゼンとスコットが南極点到達を競ってから約90年、白い悪魔は再びその牙をむいたのでしょうか。
 ちなみに、世宗基地の世宗とは、朝鮮(いわゆる李氏朝鮮)の国王の名前で、ハングル文字を発明したことで有名です。基地に王様の名前をつけるなんて……とお思いの方がいるかもしれませんが、そういう意味では昭和基地も似たようなものです。昭和は裕仁天皇の死後に贈られた名前なのですから。
 いずれにせよ、科学の発展にその命をささげた隊員のご冥福をお祈りし、現在行方不明になっている隊員の早期帰還を念願いたします。

(2003/12/09 追記)
 行方不明になっていた3人の隊員は、ヘリコプターで捜索していたチリの捜索隊に発見され、救助されました。3人とも健康状態は比較的良好とのことです。当日中に事件が解決して、記事としては中途半端になってしまいましたが、なにはともあれ、めでたしめでたしですね。

2003/12/08

遺伝子の最も少ない生物を発見 ウイルスと細菌の違い 

<生物学> このたび、生物の中で最も少ない遺伝情報しか持たない細菌が発見されました。この細菌ファイトプラズマは、植物に大きな被害をもたらす病原細菌でもありますが、生存に必要な物質のほとんどを寄生相手から調達していることがわかりました。植物や昆虫に寄生するファイトプラズマは、自分で栄養分などを合成する機能まで捨て去る究極の退化をしたようです。
 今回の発見をした東京大学の難波教授は、「ウイルスと細菌の中間に位置するが、自分ではなにも作らず、生物として例外的な存在だ」と話しています。これはどういうことでしょうか。同じ病原体として、しばしば混同されがちなウイルスと細菌ですが、この両者には決定的な違いがあります。すなわち、ウイルスは自分自身で自己複製(増殖)することができず、必ず他の生物に寄生する必要がありますが、細菌は単独で自己複製する能力を持っているのです。
 2003/11/15の記事「ウイルスの人工的な合成に成功 人は神になれるか?」でも取り上げたように、自己複製するという能力は「生物」であるための基本的な要件です。このことから、ウイルスはしばしば「半生物」と呼ばれます。難波教授らがファイトプラズマのゲノムを解読したところ、遺伝子は754個ありましたが、タンパク質の材料であるアミノ酸、生体エネルギー源の合成酵素、そして遺伝子そのものを構成するDNAの材料など、生物が生きるのに必須とされる物質を作る遺伝子の多くが存在しませんでした。
 今回発見された細菌は、さしずめ半生物と生物の中間の「4分の3生物」と言ったところでしょうか。

2003/12/06

米国が有人月面探査を再開? 科学と政治の微妙な関係 

<宇宙開発・科学政策> 米紙ワシントン・ポストは、複数の政府当局者の話として、来年秋の大統領選挙で再選を目指す米国のブッシュ大統領が、新たな有人月面探査計画を含む、国民の統合を目標とした幾つかの大型国家プロジェクトを大々的に打ち出す可能性があると報じました。
 それによると、ホワイトハウスを中心にした各省間のグループが、今後20〜30年間を見越した米航空宇宙局(NASA)の新たな惑星間有人飛行計画を練っており、その早期の目標として、1960年代から70年代初めにかけて有人月面探査を実現し、国民をひきつけた「アポロ計画」の再現を狙う、月への有人飛行計画を盛り込む可能性があるとのことです。
 これに対し、大統領報道官は「当面、具体的な発表はない」としており、まだ正式に大統領へ計画案が提出されたわけではないようですが、来年の早い時期に野心的な宇宙探査のビジョンを打ち出すよう大統領に求める見込みとのことです。一方、CNNテレビは、来年1月の一般教書演説(毎年恒例の施政方針演説)に具体的な目標が盛り込まれるかもしれないと報じています。
 さてここで、わたし自身の立場をはっきりさせておきましょう。わたしは米国一国主義に傾くブッシュ大統領とその周辺に群がる新保守主義(いわゆるネオコン)の人々が嫌いですし、今話題のイラク戦争にも始めから反対してきました(公務員なので、具体的な行動は取りませんでしたが……)、自衛隊のイラク派遣にも一貫して反対しています。
 しかし、この新たな惑星間有人飛行計画というアイデアは魅力的です。現在でもNASAは約20年後に有人火星探査計画を予定していますが、そのスケジュールが大幅に繰り上がる可能性があります。そうすれば、火星にかつて生命が存在したかどうかが明らかになり、地球と火星における生命の進化の違いや、宇宙に知的生命体が存在する可能性などの、多くの謎が解き明かされることになるでしょう。これはSF者にとって非常に魅力的です。まかり間違って「モノリス」などの人工構造物が発見されたら……などと考えると、夜も眠れません。
 残念ながら、大型科学プロジェクトには大量の資金が必要です。これは太古の昔から真理でした。ある科学者は政治的な有力者をパトロンとして独自の研究をし、ある科学者は軍事的な応用を目的とした資金援助を受けて実験をしてきました。特に初期の宇宙開発はその傾向が強く、今回のプロジェクトと比較されている「アポロ計画」も、冷戦期の軍事拡大競争を背景として、国家の威信を高めるのがその目的でした。
 1957年、人類史上初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げたのは当時米国と対立していたソ連(現在のロシア)でした。1961年、人類史上初の宇宙飛行士となったガガーリン(「地球は青かった」のセリフで有名)もソ連の空軍少佐です。
 宇宙ロケットの技術は、そのまま核ミサイル(大陸間弾道弾)の技術につながります。当時、ロケット技術の開発でソ連に後れを取っていた米国は、「アポロ計画」でなんとしても国家の威信を高めなければならなかったのです。1969年、アポロ11号で人類は始めて月面に立つことになりました。この偉業自体は確かに「人類にとって偉大な一歩」でしたが、その後ろに政治的な思惑があったことを忘れてはいけないでしょう。
 さて、ひるがえって今回のニュースです。まだ決定ではないようですが、わたしとしては非常に複雑な気持ちです。ブッシュ政権は大嫌いだが、宇宙探査計画には予算を出して欲しい……。一番いいのは、大統領選挙の対立候補がもっと魅力的な科学プロジェクトを提起してくれることですが、果たしてどうなるでしょうか。

(2003/12/07 追記)
 ブッシュ大統領が今度はナノテクノロジーの研究に助成金を出すことにしたそうです。純粋な科学技術振興でしたら大歓迎ですが、政治的な思惑が見え隠れしているのは嫌ですね。

2003/12/05

生物最古のオスの化石を発見 性の起源とは 

<古生物学> 英国の約4億年前の地層からオスの甲殻類の化石が見つかりました。生物にいつ雌雄の区別ができたのかは現代科学の謎とされており、これまで化石で確認されたのは約2億年前のものが最古でした。今回の発見は、この記録をさらに倍の2億年さかのぼり、生物史上最古のオスが見つかったもので、性の起源や生物の進化を探る上で極めて重要な意味を持っています。
 通常の場合ですと、生殖器などの軟体部は分解してしまい、化石として残らないのですが、研究グループが走査型電子顕微鏡で立体的な姿を撮影したところ、オスの生殖器官が確認されたとのことです。発見された化石はウミホタルの仲間で、貝形虫類の新種と見られていますが、研究グループはなにを考えたのか、学名を「びっくりするような巨大なオスの生殖器を持つスイマー(コリンボサトン・エクプレクティコス)」と名付けてしまいました。
 さて、なぜ生物に「性」が生まれたのかは、現代生物学の大きなテーマのひとつとされています。そもそも生物が生きていく上で、性は必ずしも必要ではありません。たとえば、細菌のような生物は細胞分裂によって増殖し、雌雄の区別はありません。むしろ、オスとメスの組み合わせを作らなくとも単独で増殖できるので、子孫を残す上では効率的とさえ言えます。
 それでは性の働きとはなんでしょうか。それは、オスとメスの遺伝子を半分ずつ組み合わせ、新しい子供の遺伝子を作り出すことです。単純な細胞分裂で増殖する生物では、子供の遺伝子は基本的に親の遺伝子と同じになります。一方、性を持つ生物では、子供の遺伝子は両方の親から半分ずつ受け継いだものになるため、どちらの親とも同じでない新しい遺伝子の組み合わせが生まれます。このことによって、性を持つ生物では、遺伝子に多様性が生み出されるのです。
 遺伝子に多様性があるということは、すべての個体が異なる強みと弱みを持っているということです。これを体質と言い換えてもいいでしょう。逆に、単純な遺伝子のコピーで増殖する生物はみな同じような体質を持っていることになります。例えばここで、種の生存を脅かすような病気が発生したとしましょう。遺伝子に多様性のある生物は、おそらく死ぬものと生き残るものに分かれるでしょう。しかし、多様性のない生物は、完全に死に絶えるか運良く生き残るかのどちらかです。つまり、遺伝子に多様性がある方が、環境の変化に対して強いのです。
 これが、現在考えられている性の起源のあらましです。普段はあたりまえのように感じている性も、こう考えていくとなんだか不思議な気になりませんか?

2003/12/04

米軍が電動スクーターから軍事ロボットを開発? 

<ロボット・軍事> 米国防総省は、自動的にバランスを取る二輪の電動スクーター「セグウェイ」を改造し、自分で判断を下して部隊と連絡を取ることが可能な戦場用ロボットを開発することを計画しています。この計画はまだ研究段階にあり、すぐに実用化されるというわけではありません。
  セグウェイはこの春、鳴り物入りで発売された、まったく新しい個人用の乗り物で、開発中は「ジンジャー」という名前で知られていました。操縦は、前後に軽く体重を移動させることで前進、後進を選択し、方向転換はハンドルを左右にねじることで行います。体の重心移動だけで自在に操縦できることから、画期的な次世代の乗り物として大々的に宣伝されました。
 さて、米国防総省はこのセグウェイを使ってなにをしようというのでしょう。研究者たちが想定しているのは、戦場での捜索任務、負傷者の安全な場所への輸送、装備を運搬しながら兵士の後について行くといった用途です。現在までのところ研究者たちは、ドアを開け、障害物を回避し、サッカーボールの後を追うといった動作すべてを、人間の手を借りずに行なうことに成功しています。
 ここで重要なのは、「人間の手を借りずに」という部分です。専門用語では「自律的」と言いますが、人間の助けを借りずに自力で判断し、ある程度の行動を行う能力というのは、次世代のロボットに求められている機能そのものです。セグウェイが土台に選ばれたのは、単に大きさが手ごろで、バランスを取る能力が優れているためで、この研究の真の目的は自律的なロボットを開発することにあるのです。
 自律的なロボットは、惑星探査などの宇宙活動を行う上でも重要です。たとえば、地球から火星までは光の速さで約数分の距離があります。この距離が通信を行う上での避けがたいタイムラグになるため、地球から人間が探査機をリアルタイムで操縦することはできません。そのため、このような用途に使用されるロボットには自律的な能力が要求されるのです。
 また、今後のロボットには、自律的な能力に加えて、複数のロボット同士が協力して、ひとつの目的を達成する能力も求められています。これを専門用語で「自律分散」といいますが、その具体的な例が、複数のロボットをチームに分けて対戦させるサッカーの選手権「ロボカップ」でしょう。
 これらの研究が完成したとき、戦場にロボットが姿を現すことになるのでしょうか? 答えはおそらくイエスでしょう。できることならば、人間の犠牲なしにロボットだけで戦争の決着をつけてもらいたいものです。こんなことを書くと、ロボット差別主義者だと非難されてしまうかもしれませんが。

(2003/12/18 追記)
 ロボカップに出場するのはサッカーをするロボットでしたが、今度は時速300キロの速球や変化球も簡単に打ち返す「高速バッティングロボット」が登場しました。開発者は、アームに付けた指で、捕る、投げるなどの高度な技術を実現し、“ロボット球団”の創設を目指しているそうです。

(2004/01/09 追記)
 米軍が、今度は犬型の軍事ロボットを開発しているとのニュースが入ってきました。なんでも、兵士と行動を共にするには四足歩行できるロボットが望ましいのだとか。米軍も色々考えますね。将来、米軍仕様アイボなんてものが発売されないことを祈ります。

2003/12/02

ベガで海王星に似た惑星を発見 地球型の惑星も? 

<天文学> このたび英王立天文台の研究チームが、こと座の恒星ベガが海王星と同程度の重さの惑星を持っているとの分析結果を発表しました。この惑星は海王星と似た軌道を回っており、研究チームによれば、海王星に似た惑星がベガを周回しているのであれば、その内側に地球のような惑星が存在していても不思議ではないそうです。
 今回の研究チームは、ハワイ島のマウナケア山にある電波望遠鏡を使って、円盤状にベガを取り囲んでいる塵を観測しました。その結果、塵の分布に濃淡があることがわかり、海王星と同程度の重さの惑星があると、観測どおりの濃淡ができることがシミュレーションによって判明したとのことです。
 太陽系外の恒星を回っている惑星は、これまで約120個が確認されています。しかし、観測手段の限界から、発見される惑星のほとんどが木星のようなガス状の巨大惑星で、岩石からできている地球型の惑星はまだ見つかっていません。このあたりの事情は、2003/10/10の記事「見えない惑星を探せ! 地球外生命探査の今」でご説明しましたので、詳しくはそちらをご覧ください。
 さて、こと座のベガといえば、七夕の織姫星としても知られ、夏の夜空を彩るメジャーな天体です。地球からの距離は25光年と極めて近く、シリウス、カノープス、アルファ・ケンタウリに次いで、全天で4番目に明るい星です。また、昨年、地球から41光年の距離に太陽と木星の関係に近い恒星系が発見されており、ここにも地球型の惑星が存在するのではないかと期待されています。もし、本当に地球型の惑星が発見されれば、人類史上初の地球外惑星探査機が送り込まれることになるかもしれませんね。

(2003/12/10 追記)
 AstroArtsにより詳しい記事が掲載されていたので、ご紹介します。具体的な内容は、本文とほぼ同じです。

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