〜科学にロマンを、ロマンに科学を SFと科学の接点を探求する〜

2004/02/16

目と耳のもとは同じ 

<生物学> ショウジョウバエの目や耳は同じ原始的な感覚器が分化してできたことを、国立遺伝学研究所の研究チームが実験で確かめました。これまでは、目などの感覚器官は、それぞれ独自の進化過程を経てきたと考えられていました。
 研究チームは、遺伝子を操作したショウジョウバエで実験を行い、感覚器が形成されるのは発生過程の特定の時期に、必要な2つのタンパク質が存在する場合であることを、突き止めました。
 条件を満たした時にだけatonalという遺伝子が働き、この遺伝子がないと、目、耳、脚の角度を感知する伸展受容器という部分が形成されませんでした。atonalはこれらの感覚器に共通する細胞を発生させ、目の場合はその後、eyelessという遺伝子が目を作る指示をするらしいことが判明しました。
 脊椎動物にもこの2つと同様の遺伝子があることから、研究チームは、人間でも同じことが起きている可能性があると考えています。



2004/02/15

さらばハッブル宇宙望遠鏡 

<天文学・科学政策> 米航空宇宙局(NASA)によると、かつて天文学者や宇宙飛行士に「宇宙一の望遠鏡」と呼ばれ、宇宙の膨張を提唱した科学者の名前を冠した、「ハッブル宇宙望遠鏡」は、早ければ2007年にもその役目を終えることが決定されました。
 ハッブル望遠鏡の存続を願う人々は、この老朽化した望遠鏡の補修を行なうよう求めてきました。しかしNASAは、ブッシュ政権の方針に従い、宇宙開発のための資源を月や火星への有人飛行に振り向けることにしました。ブッシュ政権の宇宙計画については、2004/01/09の記事「米国が月面基地建設・有人火星探査を計画」をご覧ください。
 ハッブル望遠鏡は今後数年で徐々に老朽化が進み、おのずと大気圏に突入することになります。その間も写真撮影は継続しますが、それもバッテリー、ハードウェアのヒーター、平衡状態を保つためのジャイロスコープのうちのどれかが動かなくなるまでのことです。
 ハッブル望遠鏡は、1962年に構想が浮上し、1985年に完成しました。しかし、1986年にスペースシャトル「チャレンジャー」の爆発事故が起きたために、打ち上げは1990年まで延期されました。
 15億ドルの費用をかけて、ようやく地球の軌道に乗ったハッブル望遠鏡でしたが、当時の最先端技術が使われていたにも関わらず、すぐにハードウェアのトラブルに見舞われました。この不具合は、3年後のスペースシャトル「エンデバー」の打ち上げにより、ようやく修正されました。
 補修後のハッブル望遠鏡から送られる画像は、地球の大気に邪魔される地上の望遠鏡から撮影したものを、はるかに凌いでいました。長年にわたって、ハッブル望遠鏡は、科学的に比類のない実に興味深い画像を送ってきました。さらに、宇宙に関するいくつもの大きな謎の解明においても重要な役割を担ってきました。
 1994年には、超巨大ブラックホールが存在する証拠を発表し、議論を巻き起こしました。1999年には、科学者たちがハッブル望遠鏡からのデータに基づき、宇宙の年齢を120億〜140億年と推定しました。今年の2月には、この望遠鏡のデータから、太陽系外惑星の大気中に酸素と炭素の存在が確認されたばかりです。詳しくは2004/02/03の記事「太陽系外で初めて酸素と炭素を持つ惑星を発見」をご覧ください。
 ハッブル望遠鏡の後継となる新宇宙望遠鏡としては赤外線カメラを搭載した「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」が、2011年に打ち上げを予定されています。

(2004/03/12 追記)
 ハッブル宇宙望遠鏡が、ビッグバンから4-8億年後の超深宇宙の銀河の姿を初めてとらえました。これは、従来の観測成果に比べて、我々の宇宙の歴史を数億年もさかのぼったものです。





2004/02/12

人間の体細胞から万能細胞を作成 クローン人間、実現に近づく 

<生物工学・科学倫理> ソウル大学などの研究チームが、人間のクローン胚(ヒトクローン胚)を使い、体を構成するあらゆる細胞になる能力を持つことから「万能細胞」とも呼ばれる胚性幹細胞(ES細胞)を作成することに成功しました。体細胞からのES細胞の作成は、マウスや牛などでは成功していましたが、人間を含む霊長類では技術的に難しいとされてきました。
 研究グループは、理論的には遺伝的に同一であるために、拒絶反応の起きない移植用の細胞や組織を作れることになることから、パーキンソン病のような脳神経疾患や、脊髄損傷、糖尿病などの再生医療につながるとしています。再生医療に関しては2003/12/15の記事「あごの骨から歯を再生 進歩著しい再生医療」をご覧ください。
 しかし、今回の研究はクローン人間づくりにつながる技術を利用しているため、生命倫理をめぐる議論を招くことは必至です。
 研究グループは、同意を得た16人の女性から242個の卵母細胞(卵子の元となる細胞)の提供を受け、このうち176個の卵母細胞の核を取り除いて、卵母細胞と同じ人間の体細胞を移植し、クローン胚(胎児の元となる細胞)を作成しました。
 このうち30個が、子宮に着床できる胚盤胞と呼ばれる段階まで分裂が進みました。さらに、その中の20個から内部細胞塊を採取して培養し、最終的に1株のES細胞を作成することに成功しました。このES細胞をマウスに移植したところ、神経や筋肉などの様々な細胞に分化(あらゆる細胞になる能力を持つES細胞が、特定の種類の細胞に変化すること)することが、確認されました。
 ヒトクローン胚の作成は2001年に米国のベンチャー企業も成功を報告していますが、胚の分裂は初期の段階で止まっており、子宮に着床できる段階にまで成長したのは今回が初めてです。なお、クローン技術を使わず、体細胞の代わりに受精卵をもとにした人間のES細胞の作成には、様々な研究チームがすでに成功しています。
 原理的には、クローン化に使用する体細胞は皮膚などでも構いませんが、今回は成功率を上げるために卵巣にある卵丘細胞という細胞が使われました。それでも242個の卵子から、たった1個のES細胞しか作れなかったわけで、治療への応用のためには技術的にもES細胞作成の成功率を、さらに上げる必要があります。また、狙ったとおりの細胞に十分に分化していない細胞を移植するとガン化する恐れがあり、ES細胞を狙ったとおりに確実に分化させる技術も不可欠です。
 さらに重要な点は、今回のヒトクローン胚を女性の子宮に戻して育てれば、クローン人間の誕生につながる可能性があることです。ヒトクローン胚の作成は、日本では法律によって禁止されていますが、韓国では昨年末に、クローン人間づくりを禁止する生命倫理法が成立したものの、難病などの医療研究目的に限って、ヒトクローン胚の作成が認められています。
 また、日本もクローン技術規正法の指針で、クローン胚づくりは当面禁止としていますが、政府の総合科学技術会議における生命倫理専門調査会の2年半に及ぶ検討の中でも、解禁派と慎重派の意見は平行線のままで、昨年末の中間報告(PDF形式)では異例の両論併記となりました。
 米国ではブッシュ大統領が2001年8月、連邦政府の研究資金を受けている研究者に対して新たなES細胞株を作ることを禁じ、それ以前に作られた、限られた数の株しか使わせないと発表した経緯があります。米国の研究者たちは、この大統領命令が、国内のES細胞研究の発展にとって、大きな制約を課したと考えています。
 国連では、クローン人間禁止条約の制定作業を進めてきましたが、医療研究を目的としてヒトクローン胚の作成を認めるかどうかで各国の意見が分かれ、昨年末から交渉が1年の間凍結されている状態です。一連の経緯とわたしのクローン人間に対する考え方に関しては、2003/11/09の記事「クローン人間禁止条約が採決先送りに」をご覧ください。
 このように、いよいよクローン人間の誕生が秒読み段階まで迫ってきました。この期に及んでは、クローン人間の作成を禁止するだけではなく、実際にクローン人間が生まれたときに、その人間の基本的人権が守られる社会制度作りを進めていくべきだと考えます。
 本来ならば、クローン羊のドリーが誕生したときから手をつけているべきだったのですが。

(2004/02/15 追記)
 国産のヒトES細胞を使った研究計画が文部科学省の専門委員会で承認されたことを受け、ES細胞を作成した京都大学再生医科学研究所は、早ければ3月中に国内初のヒトES細胞の分配が行われる、との見通しを示しました。なお、このES細胞は体細胞由来のクローンではありません。
 これまで研究していたオーストラリアからの輸入ES細胞に加えて、今回は、米国からの輸入細胞の研究も承認されました。ES細胞には人種差や個体差などがあるため、1種の細胞では分からなかった条件比較ができれば、研究の発展に非常に意味があると期待されています。

(2004/02/16 追記)
 政府の総合科学技術会議生命倫理専門調査会シンポジウムが開かれ、約220人が参加しました。会場からは、「脊髄損傷で寝たきりの家族がいる。胚の研究に期待し、自分の足で立つことを夢見ている」と訴える声や、「卵子を提供する女性側の意見を聞いていない」との批判があったそうです。







2004/02/11

老化をつかさどる遺伝子が特定される 

<生物工学> マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちが、老化に関与する遺伝子の特定に成功しました。これらの遺伝子を操作したところ、線虫の寿命が2〜6倍になったとのことです。この遺伝子は人間においても、老化を管理している可能性が高いと考えられています。
 一部の研究者は、遺伝子は酵母や線虫において老化に関与するかもしれないが、人間における老化は仕組みが異なると主張してきました。しかし、MITのギャラント教授らは、培養皿で人間とマウスの細胞を調べた結果、より下等な動物で相互に作用する2つの遺伝子が、人間でも同じ働きをすることを発見しました。教授によれば、これで人間の老化が遺伝子によって管理されている事実と、その遺伝子を操作できる可能性が示されたことになります。
 問題となる2つの遺伝子は、寿命に関わる2つの重要な要素と考えてられているもの、すなわち「SIRT1タンパク質」と「フォークヘッド転写因子」を生じさせます。SIRT1は、生物の摂取カロリーが少ない場合に、フォークヘッド転写因子の活動を抑制します。通常の環境では、フォークヘッド転写因子は細胞に損傷を及ぼす可能性がありますが、SIRT1が作用することで、物理的なストレスに対する人間の細胞の抵抗を助けるようになります。
 これまでは、同じ遺伝子が人間における老化にも関与しているのかどうか定かでありませんでしたが、今回の研究によって、これらがカロリー制限の結果として、老化作用を抑制すると研究者たちが考えている遺伝子と同一であることがわかりました。
 なぜ、突然カロリー制限が出てくるのかというと、50年にわたる研究から、カロリー制限は老化とその悪影響を抑制して遅らせることができる唯一の方法として知られているからです。
 そのため、SIRT1は寿命に関与すると考えられ、将来的には人間の治療にも活用できるとみられています。言い換えれば、厳しく食事を制限しなくても、老化に関わる遺伝子に作用する薬を開発すれば、カロリーを制限するのと同じメリットが得られる可能性があるということです。
 科学者たちは、この現象を飢餓に直面するなかで生命を維持するという、進化上の目的によるものだと考えています。食物が乏しければ、生体のすべての機能は低下し、新陳代謝が遅くなることによって、生物は若さを保てることになります(SFに出てくる冷凍睡眠と同じ理屈ですね)。
 しかし、人間に関してこのメカニズムが働くかについては、まだまったく証明が行なわれていません。しかし、線虫、マウス、霊長類については、厳しい食餌制限によって、実際の年齢より若く見えることが明らかになっています。
 カロリー制限の効果は注目に値すると、研究者たちは述べています。その過程において、身体のすべての細胞が保護されるというのです。カロリー制限の最大のポイントは、長生きを可能にするというだけではなく、老化に伴って発症する多くの病気、例えばアルツハイマーや糖尿病、心疾患、骨粗鬆(そしょう)症などへの防御手段になりうることでしょう。
 かくして、あまり遠くない将来、老化を防止する薬が開発される可能性が見えてきました。望むらくは、手遅れにならないうちに老化防止薬を発明して欲しいものです。そうでないと、今度は若返りの薬も必要になってしまいますからね。





2004/02/07

スペイン風邪の原因は鳥インフルエンザ? 

<医学> ハーバード大学などの研究チームにより、第一次世界大戦中の1918〜1919年に大流行した「スペイン風邪」のウイルスは鳥のウイルス由来だったことが分かりました。
 スペイン風邪は、日本を含む全世界で流行したインフルエンザで、地球の住民の約半数が感染したとまで言われます。死者の数は、2000〜4000万人と推定され、第一次世界大戦の戦死者数900万人を遥かに上回りました。ウイルスは人類最大の敵と言われますが、まさにそれを地で行く凶悪無比なウイルスです。
 さて、このスペイン風邪や現在アジアで流行している鳥インフルエンザのウイルスは、ウイルスからトゲのように突き出た「ヘマグルチニン」(HA)と呼ばれる部分が、人や動物の細胞に取り付いて感染します。
 研究チームは、アラスカの永久凍土に埋葬されていたスペイン風邪の患者の遺体から取り出したウイルスを分析し、スペイン風邪のHAの立体構造を再現しました。その結果、HAは鳥のインフルエンザウイルスに由来し、遺伝子のわずかな変異によって人の細胞に取り付きやすい立体構造になったことが分かりました。
 専門家は、現在アジアで流行中の鳥インフルエンザについても、同様のことが起きないか監視する必要があるとしています。



2004/02/03

太陽系外で初めて酸素と炭素を持つ惑星を発見 

<天文学> 米航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)の研究チームが、ハッブル宇宙望遠鏡を用いて、大気中に酸素と炭素を含む太陽系外の惑星を発見しました。大気に酸素と炭素を含む太陽系外の惑星が発見されるのは、初めてのことです。
 この惑星は、地球からペガサス座の方向に150光年離れた恒星の周囲を回っており、「オシリス」と呼ばれています。オシリスは、恒星の周囲を4日未満で1周する、非常に恒星に近い軌道を回っています。研究チームによると、ハッブル宇宙望遠鏡の画像分析装置で惑星から蒸発し続けるガス雲のスペクトルを分析したところ、ガス雲の中に酸素と炭素が含まれるラグビーボール型の領域を確認したということです。
 残念ながら、この惑星は地球のような地殻を持った惑星ではなく、木星のように厚いガスに覆われた巨大な惑星で、恒星に近い超高温の環境のため、せっかく酸素と炭素が発見されたにも関わらず、生命が存在する可能性はほとんどありません。
 しかし、研究チームは「何光年も離れた太陽系外惑星でも大気の化学成分の分析ができることが証明され、将来的には生命の検知にもつながる」と話しています。つまり、そう遠くない将来、太陽系外で地球型の惑星が発見された場合、その惑星の大気組成を観測することによって、地球外生命の存在そのもの、もしくは、生命が存在できる可能性が推定できるということです。
 太陽系外惑星探査と地球外生命の関係については、2003/10/10の記事「見えない惑星を探せ! 地球外生命探査の今」で詳しく取り上げていますので、そちらもご覧ください。



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